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韓国の大法院は、2024年12月19日、在職条件が付されている定期賞与金及び一定勤務日数条件が付されている賞与金などの通常賃金性に関連し、2件の全員合議体判決を言い渡しました。これにより、従前の全員合議体判決を変更し、「固定性」を通常賃金の概念的徴表から除外しました。かかる大法院の判例変更を受けて、通常賃金の概念要素は ①所定勤労の対価性、②定期性、③一律性に縮小しました。
大法院は、新たな全員合議体判決で、在職条件が付されている場合及び所定勤労日数より少ない日数が条件として付されている場合は、かかる条件が付されている事情だけでその賃金の通常賃金性が否定されない旨判断しました。従いまして、今後、企業は上記条件が付されている賃金項目も所定勤労の対価性、定期性及び一律性が認められる限り、追加で通常賃金に算入して時間外手当を支給しなければならないと見られ、これにより企業の今後の人件費負担は加重すると思慮します。さらに、企業側は、中長期的な観点から法律関係の混乱を防ぐために賃金体系の見直し及び改善などを行う必要性についても考えるべきです。
ただし、大法院は、今回の全員合議体判決の言渡しにあたり、判例の変更がもたらす波及及びそれに伴う混乱を考慮し、変更された判例の法理は同判決の言渡日以降の通常賃金算定から適用されるとし(原則として遡及適用否定)、今回の大法院の全員合議体判決により変更された判例の法理が裁判の前提となり既に裁判所に係属中の諸事件に対してのみ、例外として新たな法理が遡及して適用されると判断しました。
従いまして、今回の大法院全員合議体の判決言渡し前に既に支給された時間外勤務手当などについて、新たな訴訟が提起されても、今回変更された判例の法理ではなく、従前の大法院全員合議体による判例の立場に基づき通常賃金の該否に対する判断が行われると予想されます。
以下では、今回の大法院全員合議体による判決で示された新たな通常賃金の概念及び判断基準、そしてその意味について詳述します。
1. 在職条件が付されている賞与金
2. 一定勤務日数の充足条件が付されている賞与金
3. 今回の大法院全員合議体による判決の意義及び示唆すること
1. 在職条件が付されている賞与金
ア. 事案の概要
H保険会社は、給与規定及び報酬協約などに基づき、偶数月の定期賞与金、お正月・秋夕(チュソク)の賞与金、夏季賞与金を支給していたが(以下、本項では「本件賞与金」)、同各規定に「賞与金は支給日現在に在職している者に対してのみ支給し、支給日以前に退職した社員には支給しない」との条項がありました(以下「在職条件)。
イ. 判決の要旨
大法院の全員合議体による判決は、従前の判例が示した「固定性」の概念を通常賃金の概念的徴表から除外しました。大法院はその論拠として、①固定性の概念は、勤労基準法施行令第6条の第1項をはじめ、勤労関係法令のどこにも根拠がない点、②固定性は通常賃金の範囲を縮小させ、時間外勤労に対する正当な補償が行われないようにすることから、延長勤労などの抑制を図る勤労基準法の政策目標に合致しない結果をもたらす点、③通常賃金は「所定勤労の価値」を評価した概念であるため、実勤労の有無とは無関係である点、④通常賃金が法定手当を算定するための道具概念であることを考慮すれば事前に算定できるべきである点を示しました。
要するに、勤労者が所定勤労を全うすれば、その対価として定期的、一律的に支給することが定められている賃金は、それに付されている条件の存否または成就の可能性に関係なく、通常賃金に該当するということです。在職条件の場合、勤労者が在職することは勤労契約により所定勤労を提供するための当然な前提であるため、何らかの賃金の支給を受けるために特定時点に在職中でなければならないという条件が付されている事情だけでかかる賃金の所定勤労の対価性や通常賃金性が否定されないと判断しました。上述のような法理に基づき、大法院は本件賞与金は在職条件にもかかわらず、所定勤労の対価として定期的に一律的に支給する通常賃金に該当すると判断しました。
2. 一定勤務日数の充足条件が付されている賞与金
ア. 事案の概要
H会社は、団体協約及び賞与金支給施行細則に基づき、隔月の定期賞与金(各基準給与の100%)、お正月・秋夕(チュソク)及び夏季休暇の賞与金(各基準給与の50%)を支給したが(以下、「総じて「本件賞与金2」という)、H会社の賞与金支給施行細則は「基準期間内に入社して15日未満勤務した者」及び「個人別の実勤務日数が15日未満の勤務者」を賞与金支給除外者に定めています(以下「勤務日数条件)。
イ. 判決の要旨
大法院は、固定性を通常賃金の概念的徴表と見ることができないことを前提に、勤務日 数条件の場合、所定勤労を全うした勤労者なら充足する条件、すなわち所定勤労日数以内に定められた勤務日数条件の場合は、かかる条件が付されている事情だけでその賃金の通常賃金性は否定されないと判断しました。
要するに、15日以上の勤務日数は、基準期間の所定勤労日数に及ばないため、所定勤労を全うした勤労者なら充足する勤務日数に該当するため、勤務日数の条件が付されている事情だけで本件賞与金の通常賃金性は否定されず、本件賞与金は所定勤労の対価として定期的、一律的に支給する通常賃金に該当すると判示し、原審判決を破棄・差し戻しました。
3. 今回の大法院全員合議体による判決の意義及び示唆すること
ア. 通常賃金の概念の変更
大法院2013・12・18言渡し2012ダ89399全員合議体判決(以下「従前全員合議体判決)は、通常賃金の概念的徴表として、①所定勤労の対価性、②定期性、③一律性、④固定性を示し、在職者条件又は勤務日数条件が付されている賃金は固定性がないため通常賃金に該当しないと判断しましたが、かかる大法院の立場はその後も維持されてきました(大法院2017・9・26言渡し2017ダ2017232020判決、大法院2018・7・12言渡し2013ダ60807判決など参照)。
しかし、今回の大法院全員合議体の判決は、従前全員合議体判決とは異なり、通常賃金の概念的徴表から「固定性」を除外し、①所定勤労の対価性、②定期性、③一律性だけを認め、通常賃金として認められる賃金の範囲を拡大したものです。
イ. 通常賃金の判断基準
今回の大法院全員合議体の判決は、通常賃金の判断基準を見直し、具体的に在職条件付き賃金、勤務日数条件付き賃金などの通常賃金性の判断基準を示しました。
まず、在職条件の場合、勤労者が在職することは勤労契約により所定勤労を提供するための当然な前提であるため、何らかの賃金の支給を受けるために特定時点に在職中でなければならないという条件が付されている事情だけでその賃金における所定勤労の対価性や通常賃金性は否定されないとしました。
勤務日数条件付き賃金の場合も、たとえ勤労者の実際の勤労日数が所定勤労日数に及ばず、勤労者がその支給を受けられないとしても所定勤労の対価性、定期性、一律性を備えている限り、これを通常賃金に算入しなければならないと判示しました。一方、所定勤労日数を超過する勤務日数条件付き賃金は、所定勤労を超える追加勤労の対価であるため通常賃金に該当しないとしました。
従って、大法院は、固定性を通常賃金の概念的徴表として在職条件付き賃金や勤務日数条件付き賃金の通常賃金性を否定した従前大法院全員合議体判決を当該判決の見解に背馳する範囲ですべて変更しました。
ウ. 適用範囲
大法院は、このような判例の変更は賃金支給に関する集団的法律関係に重大な影響を及ぼすことから、従前の大法院判例を信頼し形成された法律関係に関する法的安全性や信頼保護のために、新たな法理は同判決の言渡し日以後の通常賃金算定から適用する旨判示しました。
ただし、今回の大法院の全員合議体判決及びその判決言渡し時点に変更された法理が裁判の前提となり、通常賃金の該否が争われ裁判所に係属中の並行事件に対しては新たな法理が遡及して適用されると判断しました。
エ. 今回の大法院の全員合議体判決が示唆すること
今回の大法院の全員合議体判決が明示的に「固定性」概念を通常賃金の徴表から除外し、通常賃金の概念及び判断基準を見直しました。これを受けて、在職条件付きまたは勤務日数条件付きなどにより固定性が否定され通常賃金に該当しないと判断された賃金項目の多数が通常賃金に該当するようになります。
これから企業は、今回の大法院の全員合議体の判例変更の趣旨に従い、賃金体系及び支給構造に対して点検や改善を行い、所定勤労の対価、定期性及び一律性が認められる賃金項目(とりわけ在職条件付き賞与金、勤務日数条件付き賞与金)については通常賃金に含めて法定手当を支給するなどの取扱いをしていかなければなりません。さらに、中長期的な観点から法律関係の混乱を防ぐための賃金体系の検討及び改善などの必要性についても考えるべきです。
ただし、今回の大法院の全員合議体判決の言渡し日以前の事情に基づいて支給された賃金については、既に通常賃金性が争われて裁判所に係属している件ではない限り、新たな訴訟が提起されても今回の大法院の全員合議体判決の法理は適用されず、依然として従前大法院全員合議体判例の立場に基づき通常賃金の該否に関する判断が行われると予想され、その結果、追加の時間外勤務手当などの支給義務が認められる可能性は低いものと思慮します。
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